2011年4月19日火曜日

2012年2月号




児島善三郎 「早春(梅)」 10F 個人蔵




                     仙崖 「天神図」

            


                                              梅一輪 一輪ほどの 暖かさ   嵐雪

                                       東風吹かば にほひおこせよ 梅の花 
                主なしとて 春を忘るな     菅原道真





毎朝犬と散歩の近所の公園もだいぶ前に紅梅が咲き始め、追い
かけるように今、白梅が盛りを迎えています。
以前の家の庭には屋根の高さほどもあった盆形のしだれ白梅が
ありました。ガクが紅いので、満開になるとピンクに染まった
ようにも見えました。大きな庭石をはさんで右手には臥龍形の
紅梅が植わっていました。ここでも紅梅が早く、白梅は特に遅
咲きでしたので前田青邨の紅白梅図のように並んで咲き誇るよ
うなことはありませんでした。自然の松林の中に竹林を作り、
内庭には梅の木ですから、この庭を作った善三郎はめでたさを
愛したのでしょう。又、郷里が福岡ですから、飛び梅で有名な
大宰府天満宮も大好きだったようで、水墨画や油彩で何点も大
楠や赤い太鼓橋が池に写る姿を描いています。掲出の仙厓和尚
の天神図も遺品の一つです。この天神様のスタイルは渡唐天神
といって中国風の服を着て梅の枝を持ち微笑んでいるのが特徴
です。受験のお子様やお孫さんがいる方は間に合えば切り抜い
て持たせてあげてください。油絵のほうは杉並のアトリエのす
ぐ近く、畠の畦に可憐に咲く白梅を描いています。周りの麦畑
に比べ梅の木の右側は一段急に下がっています。田起した土の
色、梅花の白、遠くの空のうす小豆色、それに麦畑の緑のスト
ライプ。早春の主役たちが森の前で踊りだそうとしているよう
です。



市場から

「風が吹けば桶屋が・・・」みたいに、

アメリカや先進国の超金融緩和の影響で途上国はインフレになり、
そこの庶民は生活苦に怒り、独裁者はデモ隊に追われ、イスラエ
ルもビビリだし。中東の原油が上がるんじゃないかと投機家は虎
視眈々。そんな中、わが国の銀行も大企業も好決算続々だ。
株も高い、長期金利も上がりだしたけど、国債の格付けは下がり、
若者の就職難はなくならない。国会は何も決められないし、小沢は
辞めない。雪も火山灰もドンドン積もる。俺にも誰かランドセルを只
でくれないかい!!♪♪♪どなたかこのラップに曲を付けていただけな
いでしょうか。牧伸二はラップの元祖ですね、「アーアーアーアー、
やんなっちゃった!!あーあーあーあー驚いた!!」懐かしくないで
すか。嘆くやつもいなけりゃ、デモるやつもいない、こんなインポテン
ツな日本にいつからなっちゃったのでしょう。3Dテレビになれば手
を突っ込んでコメンテーターなんていってる奴等を引きずり出してき
て「イイカゲンニシロ!!」と怒鳴りつけることが出来るのでしょうか。
それに付けても「絵が安い」「デフレが憎い」なんて言ってますが、
私たち団塊の世代は3回もバブルがあって、一番いい思いをしてき
たし、これからはみんなで年寄りになって若い世代を苦しめるんだ
そうで、「どうも、すみません!!」冗談はこれくらいにして、市場は
下げ止まりしそうな予感がします。欧米やアジアの市場でも物不足
には代わりがありません。さまざまなコモディティに買いが入ってい
ます。美術品に来ないわけがありません。「柳緑花紅」柳の芽が膨
らみ、花々が咲き乱れる、春の相場はこうあってほしいものです。


画集編集室便り

当初の予定と異なり、編集主宰を私がつとめることになりました。
なるべく第三者の目で善三郎像を炙りだしていただこうと考えて
居りましたが、これも成り行きでしょう。数学者 岡潔さんは著書
の中で「人は情緒を形にあらわして生きている。その情緒が形に
現れるとき、喜びがある、それが生きがい、真善美です。」と書い
ています。大きく励まされる言葉です。又、「その人の過去全部、
過去のエキスが情緒であると思います。」とも書いています。
作品集、レゾネの意味に「すーっと」爽やかな風が吹き込んで来
る思いがいたします。 





2011年1月18日火曜日

2011年1月号




児島善三郎 着色水墨 「橋」




                         
                 波兎夜着 筒描





     めでたさや 雲井に浮かぶ 峯仰ぎ   丸子(がんす)




正月八日に、一人で茅野の手前にある富士見パノラマスキー場
へスノーボードをしにいってきました。転んでばかりで散々でした
が、真正面に広がる八ヶ岳の雪を頂いた山塊や山頂付近から眺
めた富士山の姿は誠に心洗われる感動的眺めでした。
「良くぞ日本男児に生まれけり」といったところです。
ところで、最近、新聞などでよく目にするのに、「ジャパン・スマー
ト」とか「日本人の本来の特性を活かせ」とか、しぼみ加減の日
本人の魂を奮い立たせる記事や特集が目に付きます。日本の
風土の素晴らしさや民族の情緒の卓越性を自ら再認識しなけれ
ば、グローバル社会で生き残れないという論評が出始めてきて
います。以前は「経済は一流、政治は三流」などと言われて、い
い気に成っていましたが、いまや、経済も中国や途上国に押され、
政治家の発言などは、どこの国もまともに聞いてくれなくなってし
まいました。急速な少子高齢化と財政赤字の急増、それにも増し
て国民に根深く浸透した「他力本願の意識」によって日本沈没は
避けられないのでしょうか。そんな不安を吹き飛ばし日本再生を
期する動きが国民自体から出てきたのでしょう。政治家に任せて
はおけない。自らが変わらなくてはいけない。それによって周辺の
見方が変わってくるからです。本年が日本人の魂と誇りを取り戻
す最後のチャンスと覚悟するくらいでなくちゃ御終いです。高潔な
民族意識を有しない国と国民が他国から尊敬されたり、憧れられ
たりするはずが有りませんから。
そんなことを思いながら、年頭に意識したのが「橋」のイメージ
です。世代間に架ける橋、民族間に架ける橋、心と文化に架ける
橋、未来に架ける橋。「橋」は旅の出発点であり、終着点にもなります。



市場から

年が明けて、皆様の景気に関する体感温度はいかがでしょうか。
年明け早々、8日には毎日オークションが開催されました。メイン
セールではありませんので高額商品は少ないですが、1000万円
を超えた作品もありました。加山又造のペルシャ猫を描いた15号
が2300万円、現代美ではリー・ウーファンの80号が1050万円、
草間弥生の100号の網の作品が1000万円などが目立ったところ
でした。落札総額が約2億円、落札率約80%で、軽くスタートを
切ったといったところでしょうか。先月号で予告した9日の千束
会(日本画)の80周年の記念の大会ですが、100軒以上の売りが
あり午前10時半に開始され終了したのは夜の7時過ぎでした。
総出来高は詳しくは解りませんが約9億円ぐらいだったろうと推
測しています。一番高額だったのは東山魁夷のフィンランド風景
10号で1750万円、その他1千万を超えた作品は7点と品薄状況
です。上位に並んだのは横山大観、上村松園、杉山寧、平山郁
夫、岡鹿之助、棟方志功といったところです。本年の相場を占う
というほどの大商いではありませんでした。売る方も、買う方も大
変だなぁ、見ているほうは疲れたなぁというのが感想でした。
それにしても画品や画格の高い作品が安いです。日本画では福
田平八郎や徳岡神泉、小林古径に前田青邨、安田靫彦などなど。
祖父善三郎は口癖のように「画品、画品!!画格、画格!!」
とその高さを求めていたのに。何もかもがスピードと刺激に支配さ
れてしまっているかのようで残念です。


今月の新着


福井良之助 「ぐみ」 孔版





福井良之助 「花」  孔版



別にこのコーナーの為に買っているわけではありませんが、
先述の毎日オークションで福井良之助先生の孔版画二点を
求めました。以前にお客様にお納めして以来お目に掛から
なかった、グミの実を描いた可憐な小品と紫陽花です。
いつも戦うお二人に競り勝ったので、うれしいのですが、予算
一杯までいってしまいました。



画集編集室便り

特にやることもなかったので、4日から出社して鑑定書に使った
写真のスキャニングに励みました。1週間暖房が入っていなか
った画廊は冷え冷えとして震えながらの作業になりました。
年明けから又、何箇所か撮影にお邪魔しなければなりません。
欲もどんどん深くなり一点でも多く収録しようと気合が入ってき
ています。未確認情報ございましたら是非お寄せ下さい。
編集の藤元女史とは21日に打ち合わせ、総合監修をお願いす
る先生が見えてきそうです。






2010年12月25日土曜日

2010年12月号






児島善三郎 「冬の白田」101936年頃




冬の田の秩父おろしに濁りけり   村上鬼城


アトリエを代々木から国分寺に移してすぐの頃の作品です。
九月号の本稿に描きましたように、代々木時代の風景画は構図が
ズームアップされ、空はまったく描かれなかったり、画面の半分以
上が樹木の表現の斑描で埋め尽くされたりと、見る側は何か息苦
しささえ覚えます。画面いっぱいに描かれた豊満な人体と似たよう
な感じです。このように、人体の立体表現に比べ出遅れた日本の
風景描写も新天地国分寺に転居したからといって、すぐに其の難
渋が解決された訳ではありませんでした。昭和11年の美術雑誌
「アトリエ」に寄せた「現在の心境」の中では泣きをいれ、「告白する
と、私はいままで、自然を愛撫するような気持ちで仕事をしていた。
しかし、これからは偉大なものに接するような謙虚な気持ちで接す
るようになるであろう。自然に対する尊崇と畏敬―私の傲慢な心
が粉砕されなければ、私はとても永年ここに住む気にはなれない
だろう。(中略)いままで恋人のように思っていた自然が、自然の愛
が、いまは父親のように厳しい。(後略)」長い文章を端折ったので
解かりにくいと思いますが、要するに代々木の自宅の庭や近隣の
風景では上手くまとまってくれていたものが、空も広く奥行きの深
い国分寺の大自然の前ではまったくお手上げで、テニスで言えば
上級者相手にラブゲームでストレート敗けといったところだったの
でしょう。掲載の「冬の白田」10号を見ると新しい試みとして画面を
左右二分割し、左は今まで通りのクローズアップの平面化(モリゾ
ーのようにも見える)、右半分は遠近法を使った奥行き表現と、空
間表現に工夫の後が見て取れます。二つの要素の対立を農道の
屈曲したベクトル線と、空に浮かぶ冬の冷気の舌先の動きで辛う
じて繋げています。これから、いよいよ厳父に対する反抗期に入
るのでしょうか。田圃のあぜ道や野川、それを囲む松林や雑木林
を相手に前人未到の戦いが始まります。それにつけても右の林か
ら飛び出した一本木の高さはまさにスカイツリーです。よい年をお
迎え下さいますよう、お祈り申し上げます。



市場から

年の暮れを迎え政治は相変わらずですが、景気の方は気のせい
か少し上向いて来たような感じです。大企業の9月決算も概ね良
好だったし、一般の消費も悪くない様です。株式市況もここに来て
年初来の高値をつけています。忘年会のほろ酔い気分でこのま
ま駆け抜けられるといいですね。美術市場でも11月20日開催のシ
ンワオークションがなかなかの成績で、出品総数278点で落札率
は94.16%、落札総額は五億九千五百四十万円でした。目につい
た所では、レオナール・フジタの聖母子12号が四千万円、菱田春
草の海辺之月二尺五寸が三千八百万円、村上華岳の観音九寸
縦長が二千万円等、一番高値は東山魁夷の「明けゆく山湖」40
号で六千二百万円でした。このところ億の声を聞かなくなって久
しいのですが、現在のこれらの価格を見て安いと思うか、高いと
思うか、どちらですか。既に底を打ったと見るか、たまたまお金持
ちが道楽で乗せられて買っちゃただけと見るかでは大違いです。
私達プロにとっても思案の仕所です。来年の相場を占うことにな
る千束会の80周年の記念の大会が新年1月9日に行われます。
ご祝儀相場を期待したいですね。結果は新年号でお楽しみに。




今月の新着




辻が花残欠 江戸時代初期






高松次郎 Shadow of hook   1975年 4号



「辻が花」ご来着。桃山だったら大変なことですが時代は少し下るんで
しょう。黒柿の端材を使って額を作ろうと準備をしている所です。大化
けするか楽しみです。高松次郎の影の作品。よく三木富雄と難しそう
な話をしているのを側で見ていましたが内容は聞こえませんでした。
二人とも神経質そうなイケメンでアンソニー パーキンスみたいな雰囲
気を漂わせていました。


画集編集室便り

土屋、高杉両氏とも何時果てるともつかぬ作業を日々黙々とこなして
いってくれています。一日中、パソコンの前での作業は、さぞ、目にも
肩にも疲労が蓄積されてゆくことと心配しています。年が明けると本作
りが本格化してくる事になります。画集の執筆主幹の先生もそろそろ
決めなければなりません。私の思いとしては美術史的に相対的に捉え
る事も重要な事と思いますが、筆者が自分の言葉と情緒で作品解説
や作家像を浮き上がらせてくれたら、それが良いのではと考えています。

2010年11月25日木曜日

2010年11月号



  



          「錦秋」


          関照るや紅葉にかこむ箱根山  来山
          かざす手のうら透き通るもみじかな  大江丸





児島善三郎 20号 1960年  「箱根の秋(宮ノ下より強羅を望む)」





                 紅型 紅葉紋残欠部分




紅葉は古来まことに絵になりにくい主題です。誰でも理屈抜きに
知っている美しさですし、描こうとすると赤と黄色はどちら
も前面へ飛び出してくる色で、多用すると画面から遠近感や量
感、ムーブマンを見事に奪い去り、まさしく一枚の錦のように
平面化されてしまいます。先人はさすがお見通しで、光琳は団
扇絵ですが、山と川を大きくとらえ、紅葉の葉は周辺に数枚そ
れも半欠け状態に顔を覗かせる程度にあしらっていますし、北
斎はパトロンの家で竜田川の図を所望されると、画仙紙に曲水
を垂らし込みで描き、その上を足に赤い絵の具を塗った鶏を歩
かせ、「竜田川にございます。」と即興に逃げています。もちろん、
大まじめに屏風や襖絵の大画面いっぱいに挑んだ大画家たちも
いますが、おおむね豪華な感じだけで駄作に終わっているよう
に思えます。その良い例が横山大観の「紅葉図屏風」です。
果たして掲載の善三郎の秋景はどちらでしょう。
手元にある紅型の裂帳の中の1枚です。沖縄に紅葉があるのか
私にはさだかではありませんが、今回は色に押され何かカボチ
ャのポタージュのように「のっぺり」と失礼致します




市場から

G20がソウルで、APECが横浜でと世界の動きも新興国を巻き込
みながら、いよいよアジア、中国を中心とした時代になってきたよ
うです。アメリカ、EUもなんとか踏ん張りながら三極体制を維持し
ようと必死です。通貨戦争といわれるように自国の輸出増強と産
業保護のために、なりふりかまわず為替の誘導を仕掛けてきます。
その為ドルやユーロなどの通貨の価値は下落し、ご存知のように
金の価格が暴騰しています。その他、鉄鉱石、レアメタル、肥料、
などなど商品が軒並み高騰してきています。絵画もピカソの作品
がつい最近100億円で落札されています。以前から何度もこの欄
に書いていますように、スーパーインフレが竜巻を伴った巨大な

積乱雲のようにすぐ傍まで迫ってきているような気がします。
一方、国内でも沸き立っていた中国美術品の爆発的高騰には僅

かながら変化がでてきたようです。中国当局が土地価格の高騰を
抑える為、市中銀行の預金準備率を上げて貸し出しを抑制してい

ることもありますし、レアメタルの問題でもでてきたように輸出入や
送金の事務手続きを遅延させたり、厳格化したりで意図的に取引
を沈静化させようとしているらしいとのことです。美術品投機が賄賂
や汚職で得たブラックマネーの行く先になっているとの懸念も有るか
らでしょう。一時的な調整に向かうのか、バブル崩壊へとなだれ行く
のか、それこそ神のみぞ知るところです。いずれにしろ、わが国は
どうなるのか、私たちはどうすればよいのか頭が痛いですね。


今月の新着



児島善三郎「薔薇10F 1941年頃



                                                             
                                            Morandi FIORI1943



   国分寺時代代表的スタイルの薔薇、李朝の梅瓶は鳳凰
  が尻尾を向け後ろ向きにおかれています。以前から気にな

  っていた事がイタリアの作家モランディ(卓上の瓶の静物
  画で有名)が描いている薔薇とよく似ている事です。時代
  も殆んど同じです。恐らく、同時発生したもので、お互
  いの影響はあまり考えられません。善三郎が晩年の薔薇
  の様式にいたるのはこの作から約10年後になります。








                   越後上布亀甲絣

 
  一度は手に入れたかった越後上布です。だいぶ前の時代の
  反物だから私でも手が出せました。今はもうない銀座の老
  舗「紬屋吉平」のものです。素敵な女主人浦沢月子さんは
  和装界では憧れの的だったようです。一尺二寸の生地巾に
  118の亀甲が織り込まれています。どなたもお求めにな
  らないなら、来夏、仕立てて自分で着ちゃおうかなんて贅
  沢な事を夢みております。



画集編集室便り

 画集の体裁もどうにか見えてきました。観賞用とレゾネと
 二冊分冊する事になります。見やすく、買いやすく、カッコ
 イイ本にしようと思っています。ところで編集の藤元女史
 が上海ビエンナーレにお仕事で出掛けられた折に、
 善三郎の資料を持っていって当地の美術界の実力者に
 ご覧に入れたところ、大変気に入られたようで上海で展覧
 会を開いたらどうかとまで勧められたとのことでした。社交
 辞令もあるでしょうが、嬉しい話です。万博も終わったこと
 ですし、小生も一度上海に遊びに行って見たくなりました。
 プライベート美術館や画廊がどんどん出来ているそうです。


株式会社 兒嶋画廊



〒106-0032 東京都港区六本木 7-17-20 明泉ビル201
TEL & FAX 03-3401-3011
E-mail  eakojima@gmail.com
URL   http://www.gallery-kojima.jp/

2010年10月21日木曜日

2010年10月号

     

         匂やかに少し濁りぬ秋の空   高浜虚子





児島善三郎 「初秋の中ノ島公園」 1946年 65.0x80.5cm




中島公園・札幌 109日の朝


写真家の土屋紳一君と一緒に10月の8日から一泊で札幌と函館
へ善三郎の作品を求めて撮影に行ってきました。札幌での一泊はノボテルというヨーロッパ系のホテルで、掲載の絵の中島公園の 傍らにあります。翌朝7時頃に公園へ出ると、絵とは違って薄曇でしたが、空気はさすがに凛としていて秋そのものたたずまいで した。昭和21年10月善三郎は初めて札幌を訪ねています。 野口弥太郎氏の伝手もあったようですが、当時この公園の近くに大きなお屋敷を構えていた中根邸にお世話になったようです。中 根氏は善三郎の実家と同じ紙商を営んでいて北海道在住の洋画家たちのパトロン的存在だったようです。中根氏の奥さんやお嬢さんの肖像画も描いています。物資欠乏の東京と違って酒や食べ物も豊富でその上絵も売れるし、上機嫌で十日の予定が一ヶ月にも 延びたほどです。その上、大久保氏への手紙には翌年には札幌に アトリエを建てたいと書いているほどです。事実翌年も6月から なんと5ヶ月も滞在しています。「初秋の中ノ島公園」はこの間にかかれた作品のようです。体調を崩しながらも9月には個展も開催したようですが、北海道の経済も徐々に下降してきていたよう で成績はぱっとしなかったようです。そのせいかアトリエの話も 立ち消えとなりました。今回撮影した作品の中にもゴヤの絵を思 わせるような、中
根夫人を描いた素敵なサムホールが一点ありました。



 市場から

「ガラパゴス」というネーミングの携帯電話機が発売されるそうすが、こういう開き直りはユーモアがあって面白いですね。ガラパゴス化とは閉鎖された環境の中で文化や技術が独自の進化を遂げて、他の環境や地域とは別の枝葉を繁らせてゆくことをすことだと思います。日本の文化、芸術について同じように考察してみると、先ず縄文時代からが古代インダス文明を除いたらあまり世界に例を見ない重厚な発展を見せ、そういう土台があるから弥生も古墳も頑張り、正倉院に代表される大陸からの文化もやすやすと受け入れ我が物にしてしまいました。時代は飛びますが、江戸時代の鎖国制度と200年を越す無戦争時代は我国文化のガラゴス化にとって決定的な進化の推進役を果たしました。その間に庶民の目も能や歌舞伎、文楽、浮世絵、大和絵、身近な工芸品などを通じて異常なほどの高レベルまで高められました。今、私たちが持っている審美眼も、それら先人たちから受け継いできた有り難いものなのです。ケータイの開き直りのように美界もガーンと開き直りましょう。日本の美術は必ずやアジアや途上国の手本になるし、羨望の的になること間違いなしです。日本の美術は世界では通用しないだとか、売れないだとか、自らの中で自家中毒的に考えているんじゃないでしょうか。金融もんでくるし、このデフレの底でいいものには逃さず買いを入れましょう。9月25日の全美相の大会では、残念ながら1000万円を越すものはありませんでしたが、4時間あまりで2億5千万円の出来高がありました。





    今月の新着




村上華岳 「釋迦佛」





児島善三郎「西伊豆」10F キャンバス/油彩




どちらも夏を挟んで仕入れたものですが、表具を直したり、クリーニングをしたりで見違えるほど素敵になりました。「西伊豆」の方はマイデザインで白の胡粉磨きの太巾の額を発注し、出来上がりを楽みにしているところです。そんな按配で今月の新着とさせていただきました。村上華岳の釈尊図は家宝にしたくなるほどの名品です。




 画集編集室便り

冒頭でご報告のごとく、着々と作業は進んでいます。ご所蔵家の皆様のご協力に心から感謝いたしております。私自身の中でも、未見の作品に出会うたびに祖父の画業の奥の深さに改めて感動する事も少なくありません。只、当然のことですが、デジカメやスキャナー、高性能プリンターを駆使しても原作の色彩を表現る事は、まさに不可能と言えるでしょう。少しでも実作に近づけて感動をお手元にお届けできるよう、スタッフ一同研鑽を積みながら頑張って行きます。




株式会社 兒嶋画廊

〒106-0032 東京都港区六本木 7-17-20 明泉ビル201
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2010年9月16日木曜日

2010年9月号



「なんの湯か 沸かして忘れ 初嵐」  石川桂郎





児島善三郎「松」 1983年頃 115.5x80.7cm





ブラハ 絹経絣 ウズベキスタン h240cm

            
             野分け前・・
          一ヶ月お休みを頂いた上のこの暑さ、集中力など微塵も無く
          たってお許しを頂けるんじゃないかと勝手読み。絵も句も季
          語もばらばらです。我慢大会じゃないですが、43℃の風呂の
          中で鍋焼きうどんか、寄せなべを頂いている感じが出ればと
          ひと工夫。掲載の「松図」は実は50号の大作です。似たよう
          な構図で12号の「松籟」があります。こちらの絵のほうがカ
          ンカン照りの夕方、にわかに駆け曇り大粒の雨が地を叩 かん
          ばかりに落ちてきそうな感じが良く出ているのですが、今年
          の夏の終わりはまったく違いますから、敢えてこっちの猛暑
          のゼリー寄せのような作品を選びました。なるほど、そう思
          ってこの絵を見ると松の葉や枝のマッスが金太郎飴やゼリー
          寄せの切断面を見ているようにも見えてくるから不思議です。
          先週、福岡で久々に食べたクジラの百尋(ひゃくひろ、クジラ
          の腸)にもそっくりに見えてきます。この絵を描いた一 寸前に、
          善三郎は「代々木の庭」で繰り返し実験してきた箱庭的とい
          うか折詰的とも言える徹底的にズームアップし、遠近法を極
          端なまでに圧縮した風景画を終了し、新たな画題を求め起伏
         やV字谷のある武蔵野の国分寺にアトリエを移しました。
         留学前から考えていた準備は整った、誰の目も憚らずに、思
         い切った日本的表現を自己の絵画の中で実践するぞというマ
         ニフェストが聞こえてくるようです。左上の冷気急降下のよ
         うな表現が私にはよくわからなかったのですが、野分け前と
         思えば納得できるような気がします。冒頭のとぼけた句を詠
         んだ石川桂郎は、1909年東京生まれ、戦前は波郷の門人から、
         戦後は秋桜子の「馬酔木」に参加。酒食と放言を好み、風狂の
         人とあります。まさに、熱中症好み。




         市場から
  
    この稿がお手元に届く頃にはつぎの総理大臣が決まっている事
   でしょうが、市場の反応は冷静なものになるでしょう。何も変わら
   ない、何も変えられない恐ろしさ。アメリカを始め世界が出口戦略
   を中止し、再び緊急経済対策として公共事業や減税に走り出しま
   した。二番底への落下を止めようと躍起です。保護主義も顔を出
   してくるでしょう。日本の二の舞になってはならない、我々は違うと
   いっています。さて、これから美術品の世界はどう動いて行くので
   しょう。7月のシンワオークションは全体で6億円の下値合計が約
   10億円で落札され久々の快挙だったようです。その後、手元に届
   いたサザビーズジャパン社の小冊子「WHITE GLOVE」8月号の
   報告はなかなか興味深く、一面の石坂社長のロンドンからのレポ
   ートには「Masterpiece 2010 London」というアートフェアが紹介
        されています。そこでは、成熟してゆくアートマーケットやアート
        フェアの姿を伝えています。ブガッティーの名車もあれば19世紀
        の絵画、ピンクダイヤモンド、様々な骨董品、美術品など親しみ
        やすい品々が展示され、洒落たバーコーナーなど大人がそれぞ
        れ興味を持てるものを楽しみながら買い物が出来るという、忘れ
        ていた本来のフェアの顔を取り戻していたとのことです。「これが
        アート」、「これでもアート」というお仕着せから「ご自分のお好み
        で」というプリンシプルに戻ってきたとのレポートでした。そのほか
       6月のロンドンでマネの自画像が約30億円、5月のニューヨークで
       マティスの静物画が約27億円、ウォーホールの自画像が約30億
        円などなど、また中国美術も相変わらず沸き立っているようです。
   何で我国だけがいつまでも大底の番人をしてなきゃいけないの
   でしょうか。まるで地獄の「牛頭(ごず)馬頭(めず)」のように。



  今月の新着

                 

       脇田 和「鳥と顔」1950年代  10F キャンバスに油彩



    
                
            
          児島善三郎 「バラ」 12.5x15.7cm ボードに油彩




株式会社 兒嶋画廊
〒106-0032 東京都港区六本木 7-17-20 明泉ビル201
TEL & FAX  03-3401-3011
E-mail  eakojima@gmail.com
URL     http://www.gallery-kojima.jp/




   

2010年7月17日土曜日

2010年7月号




「紫陽花や帷子(かたびら)時の薄浅黄」  芭蕉




児島善三郎 「紫陽花」 1942年頃 21.7x15.9cm




 韓山苧麻布(ハンサンモシ) 細苧麻布(セモシ)

もう一年が過ぎてしまいましたが、新しい家の庭起しをしていた頃、 旧知のご近所からさまざまな植物を頂きました。それらがもう今では我が物顔で庭先に繁茂しています。日当たりと風通しが良いせか皆健康優良児といった風です。それらの中に紫陽花の挿木があります。花の頃でないと様子が分かりませんから、丁度今頃頂いた事になります。一日充分に水揚げさせた後、枝を詰め残った葉っぱも半分にカットして土中に挿します。大げさになりますが、祈るような気持ちです。果たして活着するだろうか、立ち枯れてしまうのか、どうとも仕様のない気持ちです。おかげで八割方活着に成功し、今、庭の隅で十五センチほどの高さの枝に不釣合いなほどの大きな花を咲かせています。小さな喜びにも根が生えてくるものなのですね。
掲載の紫陽花図は善三郎では唯一見たことのあるものです。雨ばかり続き写生に出掛けられない憂さを、縁側に陣取り一輪の手毬花に紛らわしたのでしょう。また、芭蕉の句の中の帷子時とは麻の単衣の頃の意で、蒸し暑い今頃に上布や縮(ちぢみ)、羅(うすもの)などの夏衣にかえる時候を表わしていると思います。

韓山苧麻布(ハンサンモシ) 細苧麻布(セモシ)
今回手に入ったものは重要無形文化財に指定されている鄭さんの作品で恐らく30年くらい前のものです。山野辺知行先生の一行の方が安東(アンドン)のモシ市で手に入れたそうです。蜻蛉の羽のような生地はまるで生絹のように薄く繊細で、羽衣も斯くやと思われます。まさに羅(うすもの)の代表格です。


市場から

六月二十四日に行われた年一回の親和会の大会は概ね盛況に終わり出来高は約六億円ほどだったようです。しかし一千万円を超えるものはわずかで、印象に残ったものは梅原龍三郎のカンヌ風景、東山魁夷の青緑色の風景、坂本繁二郎の植木鉢図、藤田嗣治のパリー風景などが上げられます。児島善三郎も風景とダリアが出ましたが、どちらも値が届かず不落札。中川一政も同じような薔薇の絵が何点も出ましたが20号で500万に届きません。林武は薔薇の良いものが出て6号が900万とそこそこの値で売れていました。全体で見ればまさにデフレ相場一色でした。家賃や人件費は左程変わらないのに、絵の値段が半分から五分の一になってしまって、よく画商さんは潰れないものだと自分のことはさて置いて関心してしまいます。7月15日には日本洋画商協同組合の夏季大会が開かれますが、出来高はあまり期待出来そうにありません。株安、円高、中国の不動産下落や成長鈍化など良いニュースがない中、シンワオークションが24日(土)に開かれます。ルノワールやシャガール、藤田嗣治など総額約6億円の絵画が競りに掛けられます。


今月の新着


                 
        
           脇田 和「少年の顔」1948年 16.8x20.5cm 厚紙に油彩



   

    織田広喜「群像」1954年 28x14.2cm 桜板材に油彩






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